多彩な染色技術
本藍染と呼ばれる伝統の手法「灰汁発酵建て」を始め、シンプルに葉を使う方法や、薬剤の力を借りる「化学建て」など意外と多い染料をつくる技術。
家庭で安心・手軽にできる方法も。
紹介している染色技術は、いずれも一例ですどの技法も、染師によって微妙に異なります。
Namabazome
生葉染
特徴
手順が簡単なため、家庭での作業向き
作り方
1藍(タデアイ等)を、葉と茎にわける。
2葉だけをすりつぶして水を加え、青汁をつくる。
3青汁を木綿などで濾し、染液をつくる。
4染液ができたらすぐに布を浸し、液をもみ込むようにしながら、30分以内に染め上げる。あまり時間をかけると、色が悪くなるので注意が必要。
5布を取り出し、空気中でしばらく酸化させる。
6最後に水洗いして、風通しのよい日陰で乾かす。
4つの染色法の中で、最も手軽に藍染を楽しめるのがこの「生葉染」だ。
シンプルな工程だけにスピード重視の上、晴れた日の方が美しく仕上がるなどの条件が付くが、一般家庭でも試せる手軽さと安全性は貴重。
色が悪くなる理由は、インジゴ(藍色の成分)以外の色素によるものて、薄い灰色や薄い暗緑色に染まることがある。
これを防ぐためには、染める前後に布をアルカリ水溶液に浸す方法もある。
Kansobazome
乾燥葉染
特徴
乾燥させた葉は保存可能
作り方
1藍(タデアイ等)を、葉と茎にわける。
2葉を風通しの良い場所に広げ、しっかり乾かす。
3青汁を木綿などで濾し、染液をつくる。
4液の温度が下がり過ぎないように管理しつつ、1週間の間、1日1・2回、しっかりと混ぜる。
5表面に膜(還元膜)が張ってきたら完成。
6染液に布を浸し、約5分間、液の中で布を動かす。
7染液から取り出し、絞って10分程度空気にさらす。
8濃く染めたい場合は6と7を繰り返す。
9よく水洗いして乾燥させる。
暮らしに取り入れやすい身近な染料作りのひとつ。化学薬品や還元剤を使用せず、染め色は淡いブルーになるのが特徴。
自然な発酵を促すため、温度管理に注意が必要で特に冬場など気温が下がる時期は、染液の温度が低くなりすぎないよう染料容器を毛布などに包み保温すると良い。
一度に染められる量も限られるため、染色後は一定期間休ませてあげることも必要。
様子を見て元気がないようだと、ぶどう糖や消石灰を適量加えてケアをする。
染められなくなった後は発酵資材として畑に入れ自然に還元させることが出来る。
Chindenaizome
沈殿藍染
特徴
自然発酵を利用した染料づくり
インドや沖縄などで伝統的に行われてきた手法
乾燥させた沈殿藍は保存が可能
作り方
1藍(タデアイ等)を、葉と茎にわける。
2葉を水に浸け、 日当たりの良いところに置く。太陽熱を利用して、葉に含まれているインジカンと酵素を溶かし出すことが目的。
3色素が溶け出したら、葉を取り除き、石灰を加えて溶液をアルカリ性にする。しっかりと混ぜていくと、石灰と空気の働きにより、インジゴが生成される。
4生成したインジゴは水に溶けないので、放置しておくと容器の底に泥のように沈殿する。
5一晩放置して上澄み液を取り除くと、泥藍とよばれるインジゴのかたまりが残る。泥藍の粘度があがるまで、一晩放置~上澄み液を流す作業を繰操り返す。
6最後に残った泥藍が沈殿藍となる。
7沈殿藍に水とアルカリ性の薬剤(苛性ソーダなど)を加えて溶かす。火にかけて溶かした場合は、液が冷めてから還元剤(ハイドロサルファイトナトリウムなど)を加え、染液をつくる。
8染液で布を染める過程は他の染色法と同じ。(漬ける洗う乾かす)
民芸品に使用されることも多い素朴な染色法で、放置期間の腐敗にさえ気をつければ、沈殿藍をつくることは難しくない。
ただし、蒅を使用した本格的な藍建てに比べて酸化・還元力が弱く、色のあざやかさを求める場合は、薬剤のカを借りる必要がある。
藍染は自然の恵みであると同時に、酸化・還元という化学反応の賜物であり、それを高度な技術を用いて薬剤無しで行うのが次に紹介する「灰汁発酵建て」である。
Akuhakkodate
灰汁発酵建て
特徴
阿波藍染の世界で「本藍染」と言われる伝統の染色法
化学薬品を一切使わず、酸化・還元反応を起こす
高い技術だけでなく、染場の環境も品質を左右する
作り方
1蒅のつくり方については、蒅ができるまでページを参照のこと。
2藍甕(もしくはそれに相当する容器)に、蒅、灰汁(澄んだ上澄み液のみ)、消石灰、酒をいれしっかりとかき混ぜる。
3仕込んで数日経つと、液の表面が紫がかってくる。インジゴの還元が進んだ目安で、色から状態を判断してさらに消石灰を加える(「中石」)。さらに灰汁を加える(「口上げ」)。
4液の状態をみながら、さらに消石灰を加えて攪拌する(「止石」)。この時、表面に浮かんでくる紫がかった藍色の泡を「藍の華」と呼ぶ。「中石」の工程が順調であれば、2~3日後に灰上げに繋がり、灰上げ翌日に「止石」となる。
5染液で布を染める過程は他の染色法と同じ。(漬ける・洗う・乾かす)
6最後に残った泥藍が沈殿藍となる。
「灰汁発酵建て」は、すべて藍甕の中で行われる。材料を混ぜるだけのシンプルな工程だが、加える材料の量やタイミングはすべて染師の経験と勘に委ねられており、習得するには長期に渡る修行が不可欠だ。藍甕の中に発生する酵素や菌が酸化・還元を行うため、自然由来のアルカリ(灰汁、消石灰)は用いるが、化学薬剤は一切使わない。藍建てに必要な菌は、作業を繰り返すごとに染場に増えると言われ、染師が「新しく建てた染場ではいい藍が建ちにくい」と感じるのはこのため。同じく発酵の過程を持つ日本酒の世界で「古い酒蔵には良い菌がいる」というのと共通する感覚で ある。熟練の染師だけに許された「灰汁発酵建て」。藍師が長い時間をかけてつくりあげる本物の蒅を生かすのに、これ以上ふさわしい手法はないと言えるだろう。